「声をかける」ソフトカバー 単行本 晶文社 418p 高石 宏輔 定価: ¥ 1700 カバー細かいスレキズ汚れ本体薄やけありますが中古品としてはまずまずです 自分自身の存在を疑う彼にとって、身体感覚は唯一のよりどころだ。彼は道行く女性を品定めして声をかけ、その身体に触れる。女性と交わることを通して、自他の境界を確かめようとする。そう、みずからの「身体」を媒介として。 しかし「他者」とは、肉体を通して交われば交わるほど、その存在の遠さを意識させられるものだ。ここにあるのに交わろうとするたび、他者は圧倒的な隔たりとして現前する。 「女性の動きのリズム、身につけているもの、僕を見たときの表情、声のトーン、体を近寄せたときの緊張具合の変化……」 一見すると彼が女性を一方的にまなざし、主導権を握ってその肉体に侵入しているように思われるが、そうではない。女性たちもまた彼を見て、彼に触れ返しているのだ。触れ返す女性たちは、彼が絶対に入り込めない一個の「他者」である。ひとつになどなれない。彼は満たされない。 身体を通して自他の境界を確かめる営みは、彼の自我を救わないだろう。読者も自然に、その満たされなさに没入していく。ナンパという特殊な題材を扱いながら、切ない普遍性が感じられるのは、身体コミュニケーションの根源的な不確かさを突きつけるからだ。 #高石宏輔 #高石_宏輔 #本 #日本文学/評論・随筆